1 自分の財産の管理

人は,誰でも年をとります。
「『お年寄り』と呼ばれるような歳になっても,いつまでも自分の財産は自分が管理したい」「もし,自分の管理が難しくなっても,自分の子どもに委ねれば,きちんと管理してくれるので心配ない」
と,思っている方も多いかと思います。
しかし,
「銀行に,代わりに息子が行ったら,『お父さん本人でないと預金を下ろせない』と言われた」
とか,
「施設に入所する入居金を納めるため,父親の家を売却しようとしたところ,『お父さんご本人の意思確認ができないので売買契約ができない』と言われた」
など,今の社会のなかでの生活では,自分で財産管理ができる状況でないと不都合が生じることがあります。
また,
「息子の嫁に預けていた預金が勝手に使われたしまった」
とか,
そのような勝手に使った事実はなくても,のちのち,相続が開始したときに,
「父親の預貯金を勝手に使った分は遺産の取り分から控除すべきだ」
などと,ご子息に委ねていても,何らかのトラブルがいつか生じることもあります。

そこで,ご本人の自己決定を尊重することを前提に,財産をきちんと管理していく制度として,成年後見制度があります。

かつての禁治産制度とは異なり,あくまでもご本人のための制度であり,本人のために財産を使っていくことも想定されています。

2 成年後見審判の申立

成年後見人を選任するためには,家庭裁判所に申立てをする必要があります。
そのために,財産管理能力についての医師の診断書などが必要になるのが原則です。
詳しい手続きのことは,弁護士と相談してみてください。
本人の子どもや配偶者など親族の誰かが後見人となる場合もありますし,第三者の弁護士や司法書士などが後見人になる場合もあります。
申立ての際,後見人の候補者についても予め記載して,家庭裁判所の判断の参考にしてもらうこともあります。
なお,ご本人がまだしっかりしているときに任意後見契約を締結して,予め後見人を決めておくこともあります。その場合は,家庭裁判所に後見監督人の選任の申立をして,後見人を監督する人を裁判所に選任してもらうことになります。

3 具体的事例

(相談)
父親は認知症で施設に入っています。施設の費用がかさんできて,子どもたちが援助し続けるのは難しいので,もう住まなくなった父親の不動産を売却し,その代金で施設の費用をまかないたい。
(対応)
弁護士さんにお願いして,父親について,家庭裁判所に成年後見の申立をし,成年後見人を選任してもらいました。その成年後見人が,家庭裁判所の許可を得て,適正価格で父親の不動産を売却し,その代金を管理しながら,施設の費用を支払っていくことになりました。
(補足)
裁判所によっては,成年後見の申立てについて依頼した弁護士を候補者として記載し申立てすれば,その弁護士が第三者の成年後見人として選任されることもあります。予め知っている信頼できる第三者に成年後見人になってもらうのも一つの方法でしょう。

4 成年後見になっても

成年後見が開始されても,本人が本人らしく生活できるための制度ですから,特に生活状況が変わるわけではありません。
たとえば,選挙権についてもそのまま選挙に行けます。つい最近まで選挙権も成年後見で失っていました。軽度の知的障害でも成年後見が開始される場合があります。その障害を持ちながらも選挙を楽しみしていた本人が,選挙権がなくなりとても残念に思っていました。これはおかしいと,当職らが代理人になって国を相手に裁判を起こし,憲法違反だという判決を得た結果,法律が改正され,選挙権がなくならなくなったのです。