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古典落語で「大工調べ」という噺があります。
与太郎という少しぼんやりしている男が大工をしているのですが,

店賃(たなちん),つまり家の賃料を支払わなかったので,
家主が未払いの賃料のかたに,大工の道具箱をもっていってしまい,
これを大工の棟梁に言われて,与太郎が家主のところへ取り返しに行く,
といった噺です。

滞納した賃料が一両二分と八百だったところ,棟梁の持ち合わせが一両二分しかなかったため,

「あと,八百はどうする?」
「あたぼうだ。」
「あたぼうとは何だ?」
「あたりめえだ,べらぼうめを短くしたんだ。」

というやりとりで,喧嘩になってしまい,

棟梁が家主のところに言っても,棟梁が啖呵を切ってしまい,余計に話がこじれてしまい。とうとう,お奉行様に訴え出て,お裁きを受けるということになります。

奉行の裁きは,賃料はきちんと払いなさいという,家主がいったん勝ったようにみえましたが,家主に道具箱をかたにとる質屋の資格があるかと問うと,家主は資格をもっていないということで,道具箱の道具を使えなかった分の与太郎の収入分(未払い家賃よりもずっと高い額)を家主が持ちなさいという裁きとなるという噺です。

これを現代の日本の法律で考えてみれば,未払い賃料があるということは,契約違反,債務不履行ということになりますので,与太郎は家を出て行かなくてはいけませんし,出て行っても賃料を払う義務は残ります。

でも,出ていかすことも,賃料分のお金になるものを相手からとることも,きちんと手続きをしなければいけません。つまり,訴訟などをして,裁判所を通じて強制執行ができる大義名分(これを「債務名義」といいます)がなければいけないのです。

自分の権利があったとしても,これをきちんと裁判所などの公の機関に認めてもらっていない限り,相手の承諾なくして,自力でこれを実現してはいけないのです。これを「自力救済の禁止」といいます。

考えてもみてください。あなたが家を借りていて,賃料を支払うのを怠っていたら,いきなり大家さんが,ここは私の家だからといって,帰ってみたら大家がお風呂に入っていた,なんてなことがあったら困るでしょう。大家からしてみれば,賃料も払っておらず,自分の家を明渡しをしてもらうものなのだから,自分の自由にできるし,裁判所なんか通してたら,めんどくさいし,時間もかかるという発想なのかもしれませんが,これは許されません。法治国家という言葉がありますが,法律に基づいて手続きを進めないと,強い者が弱い者を実力で牛耳る世の中になってしまします。

賃料だって,きちんと裁判所などで認めてもらった「債務名義」に基づき,強制執行,もし「道具箱」から回収するならば,「動産執行」をしなければいけないのです。

義務があるのにそれを果たしていない。それはあまり褒められたことではありませんが,それだけで権利のある人に好き勝手にされていいものでもないのです。

自分にも落ち度があるけど,そんなされようなないのでは?など,お困りなときは,弁護士の手助けできちんと手続きを踏んでもらうようにする方法も考えておいてください。理不尽さをきちんと手続きで弁護士が主張します。棟梁の啖呵のように。